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イー・ワンピョウ

新さすらい放浪記…韓国編その②


※[前話]韓国編その①はこちらから

[2009年10月25日 韓国・ソウル]

これまで何度か韓国遠征を経験しているこの俺だが、WWAオフィスに足を踏み入れるのは今回が初めてだ。

「ドージョー トゥゥゥー!!」

英語を駆使し、得意な顔で皆にガイド的説明を試みるルートゥ。

彼の英語は実にシンプル。

「オフィスと同じ場所に道場もある」と言っているのだ。

ま、正直シンプルというよりも、ただシンプルに語学力不足なだけなのだが。

もっとも、そのことは他の日本人選手たちもとっくに察しているらしく、常日頃からネタ探しに熱心な(そんな気がする)GENTAROや若い円華クンなんぞは、ルートゥの一言一言に‘‘ニヤリ‘‘と、「正しい」反応を示し始めているようだなと、俺には感じられた。

「オフィス アンド ドージョー ヒヤアァァァー!!」(ジョン・トラボルタ風にビルを指差し)

重厚なビルの地下2階。

全面畳敷きの広々とした空間に、どこかで見たような日本一のメジャー感漂う色合いなリング(写真①)がデーンと鎮座している。

WWA道場。

韓国版鬼軍曹が「TAJIRIはこのリングに似合いませんね…出ていけ!!」と、竹刀片手に出現しそうな気がした。

写真①…ロープに洗濯物を干していないあたりがメジャーである

写真①…ロープに洗濯物を干していないあたりがメジャーである

現在、韓国のプロレスは人気凋落が凄まじく、最大手であるWWAですら年に1、2度のペースでしか興行を開催していない。

それでもこれほどの設備を所持し続けていることは、道場を持たない団体で溢れ返っている日本プロレス界の現状と比較し実に立派なことであろう。

なじみの顔が何人か見受けられる。WWAの選手たちだ。特に練習していたふうでもなく、おそらく我々を歓迎するためわざわざやってきてくれたようなのだ。

全員笑顔で近寄ってくる。非道さんは以前も韓国にきているので、既知の選手と親しそうにハグを交わしたりしている。

「タジリサン オヒサシブリデス!」

「ヒドウサン オゲンキデスカ!?」

「ハジメマシテ ワタシハ キム トモウシマス」

あちこちで笑顔の挨拶が交わされる。

プロレスとは、リング上でいい試合をすればいいというだけのものではない。

遠征先の選手らと打ちとけ、信頼し合い、プロモーターの信用も勝ち取り、そういった人間的実績を積み重ねていく作業の末に気持ちよく仕事ができる‘‘人間力を披露し合うステージ‘‘なのだ。言うなれば、初対面の挨拶からプロレスは始まっているのである。

それにしても…照れながら挨拶を交わす橋本選手のぎこちない笑顔が、偏差値はあまり高くないが運動だけはやたら強い商業高校の柔道部員みたいでカワイすぎるぞ。

「チャチョウ ヒヤァ…ウウウゥゥゥー!!」

それまでノリノリだったはずのルートゥが、社長室の前までくると緊張のあまり腸捻転のような唸り声を発した。

社長室。

木製の巨大な机。

背後には、力道山と故・大木金太郎さんの巨大なパネル。

そのパネルに見守られているナイス笑顔の紳士こそ、WWA代表イー・ワンピョウ先生(写真②)その人である。

故・大木金太郎さんから「後継者」と認定された韓国プロレス界の第一人者。

写真②…先生のニックネームは「スーパー・ドラゴン」である

写真②…先生のニックネームは「スーパー・ドラゴン」である

簡単に言ってしまえば、大木さんが力道山ならワンピョウ先生はアントニオ猪木だ。

韓国における先生の大物ぶりをうかがい知ることのできる、あるエピソードをお一つ。

俺の大先輩である畠中さん(北海道でアジアン・スポーツプロモーションという団体を主催している)が韓国遠征したさい、その140キロはあろうかという巨体を目にしたソウル空港の入国管理官が「プロレス ノ カタデスカ?」と、流暢な日本語で尋ねてきた。

で、畠中さんが「そうです、ワンピョウさんの団体に出ます。彼のことはご存知ですか?」と問い返したところ、その管理官がピシッ!!と直立不動に姿勢を正し、

「イー・ワンピョウ センセイハ ワガ ソコクノ イダイナル レスリングノ センシュデス!!」と、興奮気味に敬礼したそうなのだ。

ま、もっとも畠中さんはこのエピソードを「人民サイボーグみてぇに、やたら格式ばった入管のおっさんがいてよぉ」と、完全なるネタ話として俺に披露してくれただけなのだが。

「ミナサン オツカレサマデス オゲンキデスカ!?」

社長室のソファーにうやうやしく腰掛け、先生による歓迎の言葉に耳を傾ける我々。

WWAのレギュラーであるレザー・フェイス以外のカナダ人二名は、初対面である先生に失礼のないよう恐縮しまくっているのが手に取るようにわかる。

そんな彼らの様子がおかしかったらしく、レザーが俺にこっそりとウインクしてみせた。

「ミナサン ショクジハ シマシタカ?」

ボスらしく、我々の腹の減り具合にまで気を使ってくれる先生。

前回遠征のさい、紫色のサナギのような生き物の料理を「タジリ クエ!!」と笑顔で半強制的に振舞ってくれたことを思い出した。

ちなみに先生を筆頭に、ほとんどのWWAレスラーズがカタコトの日本語を話すのだ。

「イート、レッツゴーゴーゴー!!」

先生は仕事でオフィスに残るというので、緊張感から解放されたルートゥが100万年の眠りから目覚めたチョコザイ野郎のようにハッスルする。

オフィス近くの焼肉屋。

近年韓国では牛肉の値段上昇が激しく、接待といえども食膳に並ぶのはブタ肉であることが圧倒的に多い。

この日も、ブ厚いブタバラ肉(写真③)。

写真③…この後ハサミで細かく切るのは円華クンの役目

写真③…この後ハサミで細かく切るのは円華クンの役目

しかしこれが鉄板で脂を落としつつカリカリに焼き上げると、見た目と違ってちっともシツこくないから不思議なものだ。

ごま油と塩でいただくと、いくらでも食い続けられそうである。

「やっぱり肉は塩がええのぅ」(非道さん談 with多量のビールと焼酎)。

バスがホテルへたどり着く頃には、旅の疲れから皆が無口になってしまっていた。

で、俺やレザーは以前の遠征ですでに知っているので驚きもしなかったが、他の選手らには衝撃的であったろうと思えるのがこのホテル。

ラブホテルなのだ。

韓国遠征は毎回ラブホテル。しかし、これが実に快適なんだなあ。

ベッドは大きいし風呂も広い。おまけにTVをつければ、24時間エロビデオが鑑賞できる。

「外国のラブホテルに住んでいたことがあります」だなんて、今後の人生で再就職のため面接を受ける機会があるとしたら、自己アピールにもってこいの特異な経験であると思うのだが、いかがであろう。

「トゥマーロ スリーオクロック ロビー…ヒヤアァァァー!!」

今日の仕事の締めくくり。

15年間歌い続けてもとうとう売れなかったヘビメタ野郎による魂のシャウトのように、試合地へ向かう明日の集合時間を皆に告げるルートゥ。

おのおのが大きなカバンを引きずり、女のいない部屋へ向かう。

8階のフロアに泊まるのは全員がプロレスラー。色気のカケラもないラブホテルだ。

3人は同時に横になれそうな大きいベッドにカバンを置き、部屋の中を物色する。

以前WWEで高級ホテルに泊まったさいもそうだったが、韓国のホテルはサニタリー用品の充実度がもの凄い。

とにかく、必要と思われるものは何でも揃え置きしてある。実に「もてなされているな」という気持ちにさせてくれる。

そう、「韓国はおもてなし文化の国」…なんて、善良庶民のブログにありがちなクソの役にも立たない名言が一瞬頭をよぎる。

しかしおもてなし文化の国とはいえ、俺が1日に最低でも3本は必要とするダイエットコークは当然用意されていなかった。

近くのコンビニへ。

日本とほぼ同じなファミリーマート。違うのは全てがハングルで書かれていることだけだ。

ダイエットコークを2本と、袋に入った菓子を買ったら4000ウォン。なんだかムチャクチャ高かったような錯覚に陥る通貨レートである。

で、ホテルへ帰る道すがら。今回の旅で最も気になってしまうモノに俺は直面する。

ホテルの隣のビル。

"写真④…爽やかな広告の向こうに、地獄の光景が広がっている"

写真④…爽やかな広告の向こうに、地獄の光景が広がっている

「November GrandOpen Park61GYM」

11月からオープンするジムの広告が大々的に掲げられているのだが(写真④)…

11月まであとたったの一週間しかないというのに、どう見てもまだ内装工事すら終わっていない様子なのだ。

中を覗いてみると案の定、つい先ほど爆弾が投下された戦場のように凄まじい荒れ果てよう。はたして11月まで間に合うのか?

日本では遭遇できない新鮮な刺激に満ち溢れている、それが海外である。

―続く


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